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宿命
 目の前にその第3の門が聳えていた。
 そこだけ天井が高くなった空間に、見上げんばかりの高さの石の扉が立ち塞がっていた。
 ホロンはその時、自分の腰に差していた短刀を抜き、自らの尻に生える尾を自分で手にすると、すばやく切り取った。
 少しうめいた。
 血が滴った。
「何を!」
「こうしなければここは越せない。」
 エナタンは小さく戦慄した。
 そのホロンの儀式が終わると同時に石の扉は音もなくゆっくりと静かに開いた。
 闇の中に光る目、目、目・・。
「光る者だ!組み敷いてしまえ!」
「畜生!まぶしい!引きずり込め!」
 たくさんの骨と皮ばかりの手がホロンを掴むと引きずり込んだ。
「ホロン!」
 エナタンは悲鳴を上げた。
 骨が軋む音がし、貪り食うような音も闇に響いた。
 エナタンは足がすくみ、膝ががくがくと震えるのを感じていた。
 逃げ出すことも出来ずに立ちすくむ。
 その時、後ろから声がした。
「今のうちに進め!今なら気を逸らせる!ただし急げ!すぐにおまえに気づく。」
「ホロン!」
 エナタンは走った。無我夢中で闇の中をただ前に向かって走った。
 ざわめきが後ろに立ち昇ってきた。
(・・あそこにオレよりもましなやつがいる。おれより不幸にしてやる・・。)
(・・あいつは第4の門へと走るぞ。行かせるもんか。オレはどうせ行けないんだ・・。)
「登れ!」
 いつの間にか前をホロンが走っていた。
 崖のような岩場をホロンに助けられて上へ上へとよじ登った。
 後ろで悲鳴が上がった。
 よじ登ろうとする者を他の者が引きずり落としていた。
 その隙にふたりは天井に開いた小さな穴に潜り込んだ。
 狭い穴を気の遠くなるくらいよじ登って、やっと岩盤が広がっている空間に出た。
 そこでふたりは息をついた。

「・・なんだったんだ?」
「嫉妬だ。自分よりも幸せそうに見える者が許せない。この第4の門をくぐるのは狭き門だ。なぜなら皆がお互いを引きずり下ろそうとしあっているからだ。」
「ホロン。どうして無事だったんだ?オレはてっきり食われてしまったものと・・。」
「尾を切ったことで足りぬ者となった。足りている者への羨望に捕われぬために。」
「足りている者なのか?やつらは光る者と言っていた。」
 ホロンは深い目をした。
 闇の中だというのに、エナタンにはその瞳がありありと見えた。
「エナタン。足りるも足りないもないのだ。だがそれはこうも言える。足りる者がいて、足りない者もいる、と。」
 エナタンは眉を寄せた。意味が分からなかった。
「きみが感じた寒さも、彼らが抱き締めて手放さない執着も、ありありと存在する。そして、それは幻でもある。」
「幻?やはりこれは夢か?」
「これは存在する。そうする意志がある限り。」
「光る者とはなんだ?」
「やがて知るだろう。言葉で捉えるな。」
 ホロンは立ち上がった。
「気を抜くな。ここはもう第4の門の内側だ。」

 気がつくと、じりじりと熱くなってきていた。
 周囲の岩盤にまるで溶岩のように赤いものが滲んでいる。
 息苦しくなってきた。
「進むぞ。」
 だが進むにつれ、足元の岩盤は増々熱くなり、エナタンは呻いた。
「なんだってこんなに熱い?」
 その時、熱い風がエナタンの頬に当たった。
 そちら側を向いてエナタンは叫んだ。
「わあっっ!」
 岩に顔があり、その目は血走り、炎のような息を吐いていたのだ。
 岩々が目を向き、エナタンが通るのを阻もうと迫ってきた。
 岩が叫んだ。
「焼き殺してやる!」
 その時エナタンは岩に足を取られて転んだ。
 熱い息はエナタンの髪や服に火をつけた。
「熱い!助けてくれ!」
 だが、ぐるりと周囲を熱い岩に取り囲まれた。それはほとんど溶岩だった。
「熱い!熱い!」
 炎熱地獄の中にエナタンはいた。
 身を焼かれ、その痛みに絶叫した。
「おまえが憎い!」
「おまえのせいだ!」
 皮膚がめくれ、細胞がチリチリと分解されてゆく阿鼻叫喚の中で、意識が途絶える最後の刹那にエナタンは自分の業の深さに身を焼いていることをようやく悟っていた。
(オレがしたことの報いに焼かれている。焼かれることでこの罪が消えるなら・・。もう・・いい。ここに懺悔しよう。そして滅びよう・・。)
 炎は消えた。
 しんと静まり返る岩盤に横たわるエナタンのそばに、ひざまずくホロンがいた。
「・・初めて懺悔したな。」
「・・火は?彼らは?」
 エナタンはゆっくりと上半身を起こすと、自分の皮膚を確かめた。
「憎しみの炎は懺悔の清水でしか消せない。きみの感じた痛みは、他が感じた痛みだ。それを感じてこなかったろう?それは憎しみを招く。だが憎しみは他ばかりか自らも焼く。これは岩ではない。炭化した憎しみの固まりだ。そういった人間のなれの果てだ。」
 エナタンはうなだれた。
「・・もう終わると思ったのに。憎しみに焼かれて終わってはいけないのか?」
 ホロンは静かな目で言った。
「きみの宿命はそんな甘いものではない。きみはすべて見て、そしてそれで終わるわけにはいかない宿命を背負って生まれたはずだ。そうではなかったか?」
「どれだけの罪を犯したというんだ?どうしてオレが背負わねばならないんだ?誰が決めた!もうたくさんだ!」
 エナタンは立ち上がった。
 そして駆け出した。
「待て!」
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