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苦しみの果実
 エナタンの死は突然だった。
 翌朝起きた時、フェイはまるでそのことを予感していたかのように、眠っているようなエナタンの顔を見てつぶやいた。
「往ったの?」
 その瞳からひと粒ダイヤのような雫が落ちた。
 ヨキはあわててシャツのボタンをかけ違えたまま飛んで来た。
「一体どういうことだ!?なんでエナタンが!昨日は元気だったじゃないか!」
 フェイは取り乱したヨキを抱き締めて落ち着かせると、エナタンの眠る寝室に案内した。
「うそだろ!?そりゃないぞ!まだまだあんたと一緒にやってくはずだった。ばかやろう!これからじゃないか!」
 ヨキは男泣きに泣いた。
 しばらくヨキをひとりで泣かせておいてから、フェイは静かにヨキにお茶を運んだ。
「飲んで。落ち着くわ。」
「きみは大丈夫か?すまない取り乱して。」
 フェイは蒼い顔をしていたが、うなずくと少し微笑んだ。
「そんな気がしていたの。なぜか。そうであってほしくないとは思ってたけど。」
 そう言って少し間を置くと、不思議な落ち着きを見せてフェイは語った。
「それとね。なぜかひとりではないってわかるの。エナタンが去ってしまってその想いは強くなった。」
「?」
「きっとそうよ。ひとりじゃないわ。」

 アンディの嘆きは誰が見ても心配した。エナタンの葬儀では以前のアンディのように乱暴に振る舞い、ひとりで森に駆けていった。
 見兼ねてルーサーが後を追った。
 森の中で小さな樅の切り株に寄り掛かって座り込むアンディがいた。
「アンディ。」
 アンディはぶすっとルーサーを見た。
「おまえはエナタンが死ねばいいと思ってたろ?」
「やめろ。もうそんなこと思ってない。オレだってつらいんだ。あの人がいなくなって、オレにとってあの人の存在がどんなに大きかったかわかった。胸に穴が空いたみたいだ。」
「どうして行っちゃうんだ?」
 アンディは怒ったようにつぶやいて切り株を殴った。
 殴り続けて血が出て、ルーサーに腕を掴まれた。
「やめろ!」
「この木をオレのためにツリーにしてくれたんだ。どうしてオレのとこからみんな行っちゃうんだ!」
 顔を歪ませたアンディはルーサーの胸で泣いた。ルーサーも泣いた。
 心配したフェイとヨキがふたりのそばに立っていた。
「アンディ。頼みがあるの。」
 アンディはフェイの方を向いた。
「あなたにはこの子たちのいいお兄さんになってほしいの。」
「この子たち?」
「エナタンの子よ。」
 アンディと、ルーサーと、ヨキはフェイの顔を見た。
「エナタンの子?」
「この子たちって?」
「双子なの。」
「そうなのか?」
 ヨキはフェイに確かめた。
 フェイはうなずいた。
「確かめて来たわ。」
 アンディを見た。
「べそべそしてる場合じゃないわ。お兄さん。」
 アンディは立ち上がって、フェイの顔を見上げた。
「触っていい?」
「いいわよ。」
 アンディはおそるおそるフェイのおなかに手を当てると、耳をつけた。
「ドクンドクン言ってる。」
「そうよ。」
「エナタンは知ってたのか?」
 ヨキが問うと、フェイは微笑んで答えた。
「今、知ってると思うわ。」

(まったく・・。)
(残念だな。)
(あきれるよ。喜んでいいのか、哀しんでいいのか。)
(喜んでいるな。)
(まあな。)
(教えてやろうか。)
(なんだ?)
(アンディはきみの娘婿だ。)
 エナタンは口笛を吹いた。
(もうひとりのルシフェルは?)
(きみがしたくてできなかったことを人生のすべてを通じてするだろう。)
(なにを?)
(ひととしてのささやかなしあわせを彼は大切に掬い取り味わうことが出来る。人の痛みと寄り添いながらね。)
(そうか。)
(きみがルシフェルの道をつけたんだ。)
(苦しみの果実はここに実るんだな。)
(ああ。では、ゆくか。)
(ゆこう。ホロン。)


 〜完〜
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