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ルーサー
 再び面会を申し込んだ。
 9回目にやっと扉は開かれた。
 少しやつれ、疲れて脱力したようなルーサーは黙ってエナタンを迎えた。
「ルーサー。きみの話をじっくり聞いてみたいとずっと思っていた。きみが席を立った時から。」
 まるで壁に向かって話すようだった。
 だが、エナタンは気にしなかった。覚悟してここへと来ていた。
「きみの痛みを知らなかったこと、謝りたい。」
 ルーサーは自嘲気味に笑った。
「あんたのいう通り、加害者になった。あんたが偽善者面してそんなことを言っても、どうせ心の中では笑ってるだろ。ほっといてくれ。」
「ルーサー。」
 エナタンは身を乗り出した。
「わたしが言っていたことを覚えているか?きみが自分をどうみせようと、さいなまれていることはわかる。」
 ルーサーは答えた。
「あんたになにがわかる。人の痛みを軽く扱うやつに制裁を加えて何が悪い。オレは正しい。」
「・・。きみは今、自分は正しい、と言った。だが、正しさがどうだっていうんだ。」
「・・。」
「大事なのは、きみが、救われているかどうかだ。」
 ルーサーは立ち上がってエナタンを睨んだ。
 そして叫んだ。
「救われるわけがないだろう!」
 一緒にいた弁護士が思わず立ち上がってルーサーを止めようとした。
 エナタンは微かに首を振ってそれを制した。
「オレはあの日からずっと救われていないし、これからも永遠に救われない!デイジーはもどってこない!あいつらは刑務所でのうのうと生きてる!そんなことは間違ってる!!」
 ルーサーは壁を蹴り、座っていた椅子を持ち上げ床に叩き付けた。
 弁護士はルーサーを後ろから羽交い締めにした。
 エナタンは真正面からルーサーに近づいた。そして覆いかぶさった。
「放せ!畜生!」
 抱きつかれたルーサーはエナタンの背を拳で殴った。
「よせ!やめるんだ!」
 弁護士は叫んだ。
 ルーサーは抵抗しないエナタンに激昂してなおも殴った。
「よせ、もうやめろ!この人の傷はまだ癒えていないんだ!犯罪を重ねる気か!?」
 弁護士はもう一度ルーサーに大声でそう叫び、腕を掴んだ。
 ルーサーは殴るのを止められ、エナタンに抱きつかれたまま泣いた。
 弁護士はルーサーの腕をつかんだまま、溜め息をついた。
 ルーサーとエナタンのふたりはどちらからともなくくずれるようにその場に座り込んだ。
 エナタンは少し咳き込みながら、ルーサーに語りかけた。
「・・デイジー。いい名だな・・。」
「・・オレがつけたんだ。」
 エナタンはルーサーの顔を見た。
「オレがどうしてもこの名がいいと言って、親がつけてくれた。うれしかった。妹が出来たことが。」
「・・愛してたんだね。」
 ルーサーは溢れてくる涙をぬぐった。
「守ってやれなかった。」
 エナタンは何も言わずに、ルーサーの心のやわらかいところと手をつないだ。
「あいつらも憎い。だけど、オレは自分も許せない。」
 エナタンは思わずルーサーの肉体の手に自分の手を重ねた。
 何も言わなかったが、エナタンの目からは涙が伝っていた。
 しばらくそうしていた。
 だが、弁護士が壊れた椅子を片付け始め、告げた。
「そろそろ時間です。」
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