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痛み
 目覚めたエナタンの瞳に映ったのは、アンディの怒ったような顔だった。
「ばかやろう!」
 そう言ってグリーンのマフラーでエナタンをはたく。
「こんなもの要らない!」
「アンディ!」
 アンディを抱き締めて下がらせるフェイの顔と、心配そうなアナの顔があった。
「彼は?」
 第一声で自分を刺した若者のことを聞くエナタンに、フェイは苦笑して答えた。
「警察よ。」
「ばかばか!」
 フェイの腕の中で両手を振り回すアンディに、エナタンは微笑みかけた。
「悪かった。」
「そいつ、殺してやる!」
 エナタンは手を伸ばしてアンディの頬に触れた。
「どこでそんな洒落た言葉を覚えた?」
「みんな知ってる。」
「そうする必要はない。」
「そんなばかやろうは殺しちまえばいいんだ。」
「わたしがいなくなると思ったのか?友達だと思ってくれたんだな?そう、言いたかったんだな?」
 アンディはべそをかきだした。
「安心しろ。」
 フェイも安心したのか、少しもらい泣きした。
「まだ、往くわけにはいかないんだ。」

 思ったより傷が深くて、入院は長引いた。
 エドのおかげでマスコミからは静かに守られていた。
 ベッドから起きあがれるようになると、エナタンが入院病棟を車椅子で散歩して回る様子に、少しずつ入院患者たちは心を開き始めた。
 あの、質問した年配の男性がエナタンの姿を見つけて声をかけた。
「あんたも大変だったな。」
「いや、あなたも大変でしょう?」
 笑顔を浮かべるエナタンにつられて、彼に限らず話し掛ける者はたいがい笑い返した。
 エナタンが無防備に機嫌よくしていることで、エナタンのそばにはいつも誰かしらが近寄り、輪が出来ていった。
 車椅子の少女が笑いかけた。
「それも意味があるってことですね?」
「いいことを言う。誰に聞いたんだ?」
 エナタンは笑って少女に目配せした。

 フェイがやって来た。
 エナタンはフェイの目を見てうなずいた。
「車、回してあるわ。」
 エナタンたちが密かに向かったのは留置場だった。
 エナタンを刺した若者が拘留されていた。
 エナタンは若者の弁護士から、彼の妹が犯罪者によって命を奪われていることを知った。
 若者の弁護士も同席して、エナタンは彼と面会することを望んだ。
「きみを訴える気はないとソダーバーグ氏はおっしゃっている。だが、条件としてきみと話すことを望まれた。」
「オレには話すことはない。拒否する。」
「きみは会った方がいい。被害者の感情を損ねるのはきみにとって不利だ。」
「構わない。あんなやつの機嫌をとる気はない。どうなってもいい。」
「きみはまだ未成年だ。きみの御両親の許可もいただいている。わたしはきみを守る責任がある。きみのわるいようにはしない。」
 フェイが押した車椅子が部屋に入った。
 エナタンは若者に声をかけた。
「また会えた。わざわざあそこにも来てくれていたんだね。」
「あんたの口を封じる機会を狙っていた。」
「あの時からずっと?」
 若者は目を合わさず後ろを向いた。
「あんたには何を言っても通じないと思って絶望したから刺した。」
「名前はルーサーでいいんですね?」
「ルーサー・ランバートといいます。」
 弁護士は答えた。
 エナタンの講演中に席を立った若者が、ここに座っていた。容疑者として。
「わたしの何が許せなかったんです?」
「傲慢さだ。」
 うなずいてさらに聞いた。
「きみはあの後、ずっと何を思っていた?」
「オレのことを答える必要はない。あんたが自分の胸に手をあてて考えろ。」
「・・きみは妹さんを亡くしていたそうだね。犯罪によって。」
「だからどうだっていうんだ。相手を憎むことより、あんたは自分の痛みを見ろっていう。そういうのを傲慢だっていうんだ。出て行け!口も聞きたくない!あんたはオレの弁護士だろ?オレの側につけ!」
 ルーサーは弁護士の方を見て怒鳴った。
「わたしはきみの刑を軽くするのが仕事だ。きみに誰かが危害を加えるようなことがあればそれからも守るのが仕事だ。職務には忠実だ。」
「オレはこいつから精神的危害を加えられている。今すぐ出てってくれ!」
 いまにもエナタンにつかみかかろうとでもするかのようなルーサーの様子に、弁護士はあきらめてエナタンに申し出た。
「申し訳ありませんが、彼は興奮している。またにしてください。」
 エナタンはうなずいてフェイをうながした。

 車の中で黙りこくるエナタンにフェイがつぶやいた。
「痛くて痛くてどうしようもなかったのね。」
「きみと同じことを思っていたよ・・。」
(ならばわたしはどうすればいい?)
 エナタンは考え込んだ。
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