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光の3原色
「わたしたちの中に感情に優劣をつけてきた習慣があります。気持ちのいい楽しい感覚だけがよくて、胸が張り裂けそうな痛い想いというのは悪だと。けれどもご存じですか?光の3原色を混ぜた時、白となることを。絵の具の色を全部混ぜたら黒になります。色の3原色の混ざり切ったところは黒です。けれども、光の3原色を混ぜると最後は白になります。テレビの画面や舞台照明はそうです。」
「なんのことだ?」
 どういうことかと聞いた老人が再びつぶやいた。
 ますます分からないという顔が増えるのを見てエナタンは笑った。
「色ではなく、光から見ることも必要なのです。光の中に全ての色は含まれるのです。哀しみと怒りと喜びは、等しく光の成分なのです。12番目の門の向こうはそうでした。そして、そこは遠い場所ではない。実は今ここにすでに、あらかじめその門は開かれているのです。12番目の門の向こうに全ての門は含まれていました。」
 そこで一息ついて静かに語った。
「感情はその人間の人生において表現されることを待っています。あらゆる手段を使ってその機会を得ようとします。たとえ病になろうと、自らのその使命のためならひとはそれを厭いません。」
 ふと、気がついてエナタンは首を振った。
「表現というのはただ、喚くとか、人に当たるとか、そういうことではありません。感じないよう蓋をするのではなく、その感情が自分に湧いているのをまるごと抱きとめるということです。ただし抱え込むのではなく、充分に抱きとめた後にはそれが昇華するのを見送ることが大切です。それが浄化ということです。なぜならそうして見送る感情はごまんと列をなして順番を待ち望んでいるからです。深い哀しみの後には喜びもやって来るのです。それに蓋をしてはいけません。」
「それならやっている。」
 エナタンは老人に静かに敬意を払ったまなざしを向け、隣の婦人にも微笑んだ。
 別の女性が問いを発した。
「病になるということが、別の意味を持つと?」
「そうです。」
 ある看護師が手を上げた。
「病は克服するもの、そのためにわたしたちは闘って来たと思ってきました。」
「克服しようと懸命に努力することによって味わう感情があります。そして、それがかなわなかった時に味わう感情もあります。それが尊いのです。例え元通りのからだとならなくとも、感情の歴史を築いたかけがえのない人生です。人生を生きた者です。祝福というのは、すべての人間のものです。なぜなら、感情を味わわない人間などこの世にひとりもいないからです。感情という途方もない営みを経験し、さらにそれを乗り越えてゆくとき、魂は磨かれてゆきます。それを手土産に、あの門をくぐるのです。それが世界の財産であることをその時知るでしょう。」
「今、わたしたちが苦しんでいたりすることは意味があるということですか?」
 車椅子の少女がそっとつぶやいた。
 エナタンはもう何も言わずにただ深く微笑を浮かべ、人々に感謝するように手を合わせると立ち上がった。
 エドがにこにこと近づいて来た。
「ありがとう。」
 エナタンはうなずいた。
「こちらこそ。あなたのその笑顔の成分はいったい何で出来ているんだ?」
 ふたりは肩をたたきあって笑い合った。

 その時、エナタンは脇腹に鋭く突き刺すものを感じ、雪が雪崩るように静かに崩れた。
 エドが抱きとめた。
 フェイが叫んだ。
 待ち合い室は騒然となった。
 看護師の男性が、ひとりの若者を押さえ込んでいた。
 エナタンはその顔を見て微かに笑った。
「きみか・・。」
 だが、咳き込んで口から血を吐いた。
 すぐにストレッチャーで手術室に運ばれた。
 意識はすぐに途絶えた。

(ホロン・・。)
(もう・・いいのか?)
(いや。待ってくれ。)
(またもどるのか?)
(たのむ。)
(なぜ?)
(彼と話がしたい。)
(・・ああ。)
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