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ギフト
 翌日、エナタンは住所を片手にその施設を探した。
 ダウンタウンの一隅に、その赤いレンガ造りの古いビルはあった。
 ベルを押してしばらくすると、アナが現われた。
「まあ、ソダーバーグさん、わざわざ。どうぞ。お入りください。」
 施設はこじんまりとしていたが手入れは行き届き、居心地はわるくなかった。
 居間に通され、お茶が運ばれた。
 小さな子ども達の声が響くのを聞きながら、エナタンは両肘をソファーに預け、両の手を組んでおもむろに尋ねた。
「さっそくですが、アンディはどういった事情でこちらへ?」
「心配していただいて。・・彼は両親はいるのです。ですが、父親は事故で片腕をなくしてから暴力を振るうようになり、母はそのことで薬物依存になって病院に入っています。兄がいますが、高齢の祖母が引き取ったのは聞き分けのいい兄だけでした。そのことをアンディは自分だけ捨てられたように感じたようです。ここに来たのは1年前ですが、頑なに心を閉ざして言うことを聞きません。自分なんかどうなってもいいというような振るまいをしてそうしてむしろ気を引こうというような、そんな子なのです。」
 エナタンはうなずいた。
「友達はいないのですか?」
 アナはため息をついた。
「近づこうとしても、誰も寄せつけないのです。ですから、あなたのいうことを聞いたときは驚きました。」
 エナタンはまるで自分のことを言われているような複雑な気分になって苦笑した。
「彼は食べ物は好き嫌いは?」
「嫌いなものが多いですが、好きなのはカラメルプリンです。」
 それを聞いてエナタンはくっくっくっとこらえきれず笑った。
「何か?」
「苦虫をかみつぶしたような顔を一生懸命していても可愛らしいものが好きですね。おまけにそれはわたしも好物だ。」
「そう?」
 アナは面白そうに笑った。
「ありがとうございます。ロランさん。」
 そう言ってエナタンは立ち上がった。
「あの子とまた会って下さいますか?」
「ええ。彼とわたしは友達になったんです。」
「友達?」
「そう。わたしにとっては生まれて以来二人目の男友達ですからまた会いに行きます。」
 アナは少しほっとしたように笑った。

 1週間してアンディの退院の日となった。
 その日はクリスマス・イブだった。
 病院の玄関をアナと出たアンディは、そこにエナタンの姿を見た。
「さあ、乗って。」
 自分の車の助手席のシートを指して、エナタンは小さく笑った。
 アンディはいぶかしげにアナの顔を見上げた。
「いいのよ。今日はソダーバーグさんがご招待くださったの。明日迎えにいくわ。」
 アンディはエナタンのピカピカに磨き上げられた黒い車に乗り込んだ。
「おまえ、金持ちなのか?」
 アンディは不機嫌そうにつっけんどんに聞いた。
「どう思う?」
「そうは見えない。」
 エナタンは愉快そうに笑うと、うなずいた。
「いい答えだ。わたしのところに留まるお金は人が思うより少ない。だが、わたしには今もっといいものがある。」
「なんだ?城か?ヘリか?」
 くっくっくっと笑うとエナタンは言った。
「それよりもっといいものだ。きみには見せよう。」
「なんで、オレを招待なんだ?なんのことだ?」
「なにって、今日はクリスマスイブだ。」
「えっ?」
「イブのパーティだ。」

 家に着くと、アンディは雪の積もった美しい庭や森を見回した。
「ここ、ニューヨーク?」
「そうだ。こっちだ、アンディ。」
 扉が開いてフェイが満面の笑みで迎えた。
「ようこそ!アンディ。待ってたわ!」
 エナタンはアンディの方を向いて目配せした。
「ほら。これがヘリよりいいものだ。」
 アンディはニヤリと笑うとフェイと握手した。
 エナタンが森から切り出してきた小さな樅の木には華やかなクリスマスの飾りつけがされていた。
 陽が暮れてフェイが用意した食卓には火が灯された。
 退院したばかりのアンディに合わせて負担にならないものをおいしそうに色とりどりに工夫したフェイの心づくしだった。
 アンディは不思議とフェイの前ではエナタンが苦笑するくらい、借りてきた猫のように聞き分けがよかった。
 笑うことを禁じて忘れていた者が久しぶりに思い出したようなぎごちない笑顔をみせた。
 食事が終わる頃、フェイがキッチンからトレイを運んできた。
「エナタンはアンディの話をよくしてくれたわ。これはわたしからのクリスマスプレゼントよ。」
 そう言ってウインクするとフェイは蓋を取った。
「ケーキはまだ早いと思って。」
 ケーキのようなデコレーションのカラメルプリンが現われた。
「ワーオ!」
 思わず叫んだアンディに、エナタンとフェイは笑った。
 食事が終わるとデッキに出て、星を見上げた。エナタンは指差した。
「今見てる星は想い出かもしれないな。星の光がここまで届くのには気の遠くなるような時間が要る。もう、あの星はあそこにないかもしれない。」
「想い出を見てるの?」
「だけど、想い出ほどたしかなものもないさ。この世から去る時、何も持っていける物はない。想い出だけだ。」
「想い出は持ってけるの?」
 エナタンはうなずいた。
「だからたくさん今を楽しむんだ。」
 フェイがアンディに毛布を着せた。
「エナタン。」
 アンディが問う。
「オレ、ろくな想い出しかない。そんなもの持ってくのか?」
 エナタンはアンディを抱き寄せた。
「これも持っていけ。」
「これもよ。」
 フェイがキスした。
「やめろよ。」
 そう言いながら、アンディの頬はゆるんだ。
 星がまたたいた。

 翌日、迎えに来たアナに連れられてアンディは帰っていった。
 車が見えなくなるまで見送って、エナタンはフェイに微笑んだ。
「ありがとう。」
「楽しかったわね。夕べの想い出はアンディの持ち物になったかしら?」
「ああ。また想い出を作ろう。メリークリスマス!」
 そう言ってエナタンはフェイへ贈り物を渡した。
 朝日のような笑顔を浮かべると、フェイは包みを破った。
「マデリン・ヌーベルバーグじゃない!わたしが一番好きな歌手よ。知ってた?」
「ああ。知ってたよ。」
 エナタンはこっそり笑った。
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