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アンディ
 時が止まったような時間を過ごして、扉の開く音に我に返った。
 ストレッチャーに乗せられたアンディが運ばれて来た。麻酔で意識はない。
「もう大丈夫ですね?」
「ああ、あなたですか。大丈夫です。」
「身元は結局わからないんでしょう?」
 看護師が答えた。
「施設の子どもらしいですね。施設の名前が下着に縫い付けられていましたから。連絡してみます。」
「どこの?」
「ダウンタウンの方です。」
 医師と看護師は会釈すると、ストレッチャーをエレベーターに乗せて病室へと上がっていった。
 エナタンはひと区切りついたことを知り、歩き出した。
 タクシーを拾った。地下鉄に乗る気が失せてしまった。
 雪の中を家へと向かう車にうずくまりながら、ニューヨークの夜景を眺めた。
(アンディ・・。もうすぐ、クリスマスだ・・。)

 3日後、エナタンは病院の階段を昇った。
 受付でアンディの部屋を聞いた。スタッフはエナタンの顔を覚えていた。
 4人部屋の窓側にアンディはいた。
「やあ。」
 アンディはエナタンのことが分からず、警戒した顔をした。
「覚えてないか。階段できみを抱き上げてここまで連れてきた。」
 アンディはむすっとした顔になり、横を向いた。
「覚えててくれたな。今日はずいぶん顔色がいい。すぐに退院できる。」
「退院なんかしたくない。放っといてくれればよかったんだ。」
「帰りたくないのか。何かあったのか?」
 アンディは眉根にしわを寄せた。
「関係ないだろ。」
「そうだ。・・関係ないな。」
 そう言って後ろに持っていたものをアンディの目の前に出した。
「メリークリスマス。これを受け取ってくれれば関係はできる。」
 アンディは横目で包みを見た。
 だが、顔は横を向いたままだった。
「どういう関係?」
「友達だ。」
 今度は真正面にエナタンを睨み付ける。
「なんで?」
「なんで、もないだろう?友達になるのに理由がいるか?」
「憐れみならやめろよ。」
 まだ、10にもならないかに見えるアンディがそう口にするのを聞いて、エナタンは笑ってうなずいた。
 ベッドに腰掛けてアンディに告げた。
「きみが可哀想なら友達になんかならない。」
「じゃ、なんで?」
 気の張っていた声のトーンが少し下がった。
「きみはちゃんと怒ってた。きみは、僕はここにいると叫んでた。だからわたしは答えたくなった。そうだ、きみはそこにいるって。」
「・・?・・だから?」
「そういうのを友情って呼んじゃだめか?これはものじゃない。友情の証だ。さあ。」
 そう言ってエナタンが差し出す包みを、アンディはしぶしぶとその小さな手で受け取って破き始めた。
 中から出て来たのはターコイズブルーとエメラルドグリーンが混じったマーブル柄のふかふかのマフラーだった。
「きみの髪の色に似合うんじゃないかと思って。」
 赤毛のアンディは黙ってマフラーを握った。
「怒ってるのか?」
 アンディが何も言わないのでエナタンは少し心配になった。
 そこへ看護師と中年の女性が入って来てアンディのベッドに歩み寄った。
「アンディ。」
 アンディは声の方を振り向くと眉間にしわを寄せた。
 看護師が紹介した。
「ああ、この方はアンディを地下鉄の駅からここへ運んで下さった方です。えー・・。」
「エナタン・ソダーバーグです。」
「ソダーバーグ?」
 女性は聞き返した。
「あの、作家のソダーバーグさん?」
「・・ええ。」
「まあ、それはそれは。わたしはアンディを預かっている施設の施設長です。アナ・ロランといいます。この度はありがとうございました。」
 エナタンはアンディを気にした。
 さっきよりもさらにむっつりと貝のようになっている。
「この子は脱走の常習犯でして、目が離せません。」
「アンディに何か?」
「様子を見に来たんです。」
 アンディはマフラーをアナに投げつけ、ベッドから降りて走ろうとした。
 エナタンはアンディを抱きとめた。
「だめよ!おとなしくしてなさい!」
 アナはピシリと叱ったが、アンディの心には届いていなかった。
 小さいが確かなぬくもりが激しく生きようともがいているのを自分の両腕に感じながら、エナタンは小声でささやいた。
「山羊男を知ってるか?」
 腕から逃れようと暴れるアンディに構わず、話を続けた。
「背中には紅いたてがみのような毛が生えている。たてがみを知ってるか?」
「うるさい!離せ!」
「ひづめを響かせて2本足で立って歩く。走ると速い。わたしは追い抜かれた。」
 腕を振り回して暴れていたアンディは、ふいに疲れたのか力を抜いた。大きく息をしながら、不機嫌そうにつぶやいた。
「・・競争でもしたのか?」
 エナタンは笑って力を抜いた。
「追いかけられそうになったんで逃げたんだ。」
「なんで?」
「聞きたいか?」
 アンディは黙った。
「じゃ、ベッドに入るんだ。話そう。」
 アンディはむすっとしたままおとなしくベッドに入った。
 エナタンは看護師とアナにうなずくと、アンディに語り出した。
 
 小1時間ほどしてエナタンは病室を出た。
 ナースステーションで看護師が笑顔を見せた。
「眠った。」
「ありがとう、ソダーバーグさん。助かりました。」
「ロランさんは?」
「お帰りになりました。アンディが興奮するといけないからと。」
「施設で何かあったのですか?」
「さあ、わたしたちもまだ詳しくは分からないのです。」
「その施設の名前と場所を教えてください。」
「わかりました。」
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