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バースデイ
 しばらくエナタンは講演の予定を入れるのをやめた。
 自宅の周りの樹木の中を散策する日々が続いた。
 鳴くことを忘れた鳥のように、眠ることを忘れた魚のように樹木の下で立ち尽くすエナタンを、フェイは見守った。
 フェイが午後のお茶を入れた。
 エナタンが森からもどってテーブルについた。
「フェイ。」
 フェイはうなずく。
「あの緑を見たか?」
 そう言ってエナタンは後ろに広がる森の方に手を拡げた。午後の陽射しを受けて葉の輪郭が光っていた。
 フェイは微笑みながらうなずく。
「美しいだろう?こんな美しさがあるか?」
 エナタンの瞳は子鳩のように澄んだ。
「世界は美しいんだ。オレは知らなかったよ。」
 こらえ切れずフェイは笑った。
「ハッピー・バースデイ!エナタン!」
「なんだ?」
「生まれたのよ。今。」
「生まれた?」
「あなた、ランキンの死と同化していたでしょう?まるで冬眠の熊のようだったわ。そして、生まれたの。ランキンとともに。」
「ランキンと?」
 つぶやくエナタンの腕に自分の手のひらを乗せてフェイはうなずいた。
「ランキンが一瞬でも本来のランキンとして生きたなら、その時をともに過ごしたあなたとここに生きるわ。あの葉が輝くのもあなたの瞳でともに見るでしょう。」
 乗せられた手に自分の手を重ねてエナタンはフェイの言葉をかみしめた。
「そうであるならば、殺された人々も、きっとその役割を果たしてわたしたちとともに生きることになるわね。」
 エナタンはフェイの手をそっと握り返した。

 冬が訪れた。
 ニューヨークにも雪が降った。
 エナタンが住むところはまるでお伽話のような銀世界へと変貌した。
 クリスマスも近い。街は華やいだイルミネーションに包まれていく。
 エナタンはフェイへのクリスマスプレゼントを買うため、街を急いでいた。
 この世に生まれてから、初めてといっていいくらいうきうきとした想いを味わっていた。
 愛する人のためにプレゼントを選ぶことほど人を幸福にするものはない。
 目指す店への角を曲がろうとして、エナタンは一瞬見覚えのあるものを見たような気がして振り返った。
 ショーウインドウに天使の翼が光って映って見えた。
 思わず足を止め、ゆっくりとその店へと近づいていった。男がそのウインドウの中を覗いていた。
 エナタンはハッと気づいた。
 その翼は、ショーウインドウの中のものではなくて、そこに映し出されたものだった。
 それは、黒いコートを来たその男の背中に生えていたのだ。
「あなたは・・?」
 振り返ったのはカイルだった。
 翼は消えていた。
「今、きみ・・。」
 背中を指差しながらつぶやくエナタンを見てカイルは笑った。
「やあ!元気か?」
「・・久しぶりだ。」
「フェイは元気か?」
 そう問うてカイルは面白そうにおどけてみせた。
「これは前に誰かさんがオレに問うたセリフだな?」
「元気だ。」
 エナタンは微笑を浮かべ、カイルに手を差し出した。
 カイルは愉快そうに握手を交わした。
 自然と一緒に歩き出した。
 エナタンが問うた。
「何を見ていたんだ?」
「プレゼントだ。」
「誰に?」
「秘密だ。」
 エナタンは少し笑うと、ちょっと躊躇しながらカイルの目を見て言った。
「きみにちゃんと言ってなかったが・・。」
「なんだ?」
「『LIGHT GATE』に出て来たミカエルなんだが・・。」
「ああ。」
「・・いや・・。」
「・・。今きみはしあわせなんだな?」
 エナタンの言葉には頓着せず、唐突にカイルは聞いた。
「えっ?」
「ならいい。言っておくが、オレもオレなりにしあわせだ。」
 カイルはビルを見上げて手を伸ばした。
「星の数ほどのイルミネーションだ。その数くらいしあわせはある。」
 エナタンはうなずいた。
 カイルはエナタンの肩をたたくと笑って片手を挙げて去っていった。

[ミカエルはきみだ。]
 そう言おうとしてエナタンは黙った。
 言わなくてもカイルはミカエルとして生きていると直感した。
 歩き出しながらエナタンは思った。
(だが、ミカエルとしてのカイルと、語ってもみたかった・・。)
 顔を上げてふっと笑った。
(いや、それはいずれたっぷりと出来るんだ。)
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