CALENDAR  ENTRY  COMMENTS  CATEGORY  ARCHIVE  LINK  PROFILE 
スポンサーサイト

一定期間更新がないため広告を表示しています

- - -
全き円
「エナタン!」
 ヨキの上ずった声が、玄関の外からしてきた。扉を勢いよく開けてヨキは叫んだ。
「これはなんだ!」
「新作の初稿だ。」
「そんなことわかってる!いったいこれはなんだって聞いてる!」
「なにかまずかったか?」
 エナタンは怪訝な顔をして問い返した。
「そうじゃない!素晴らしい!」
 ヨキは朝日のように笑った。
 ソファーに飛び込むように座ると、原稿を自分の手の甲で打鳴らし、興奮気味に語った。
「こんなものは読んだことがない。いったいどこからこんなものが出て来た。今まで隠してたのか!ああ、そうか、やっぱり落っこちたことで変ったんだな?」
 エナタンはヨキがはしゃぐのを、微笑ましく見つめていた。
「だから、言っただろう?見て来たことを書いている。」
 ヨキは一瞬黙って、呼吸を整えてから聞き返した。
「見て来た?」
「言っただろう。意識がない間に見て来たことをただ書いている。」
「・・それは夢・・か?」
 エナタンは、立場が逆になっていることに可笑しそうに含み笑いを浮かべながら答えた。
「夢・・。そう思いたければそうとってくれてもいい。」
 ヨキは組んでいた足をほどいて座り直した。
「その・・。聞いてもいいか?」
「ああ。」
「意識がない間これをずっと見ていた、と。」
「そうだ。」
「その・・ここに出て来るルシファーというのはきみだとすると、ホロンというのは・・。」
「きみだ。」
「・・。」
 ヨキは絶句し、なぜか声をひそませて問うた。
「オレ?」
「地獄も、天界も、ここに生きている者に信じろと言っても無理だしその必要はないかもしれない。だが、きみがむやみにわたしを支えようとしているそのわけを考えたことはあるか?」
「・・。」
「いいんだ。きみはきみで。ホロンでなくて。だが、理屈の通らないところに、生まれる前の理由もあったりもする。わたしはそれが腑に落ちて変った。というか、我に返ったんだ。理由が明らかになった方が進化しやすいのならその扉が開かれることもある。そのためにわたしは返された。」
「返された?」
「第12の門から。」
「そうだ、ここにはその第12の門の向こうは書かれていない。それは?」
 エナタンは笑んだ。
「これから書く。」
 そう言ってエナタンは机に向かい直した。
 ヨキはまだ問いたいものが自分の中にあるのを感じていたが、それが何か言葉に出来ないでいた。
 エナタンの書斎で、エナタンのペンが走る音だけがしていた。
 ヨキは窓辺から美しい外の樹木を見つめた。
 時のない時が過ぎて、窓の外にあの時の星を見つけてヨキはつぶやいた。
「明けの明星だ。」
 エナタンは振り向いた。
「きみが目を覚ました時、この星が出ていた。」
「・・。ああ。わたしにゆかりの深い星だ。」
「きみは本当にあれから別人のようだ。オレは誰と話しているのか、時々分からなくなるよ。」
 エナタンは思いやり深い目をしてペンを置くと、窓辺のヨキのそばに立った。
「きみをとまどわせてすまない。だけど、これもほんとうのわたしなんだ。」
「変な話、前のあんたも好きだったぜ。」
 ヨキはほんの少し淋しそうに、冗談めかして笑った。

 ・・・・・・・

 今そこを表現することはまったくもって不可能のように思える。
 なぜなら、言葉とはなにかを切り取るものであり、水面下の膨大な氷山を表現するにはあまりにも小さい氷のひと粒の原子であるからだ。
 そこはとうてい切り取ることのできるところではなかった。
 わたしとホロン。もっと言えば、生きとし生けるものたちは、星も宙も含めてその光の門の向こうに在るときひとつだった。
 門といっても地続きだ。
 そこから明らかにそうであるというだけで、たった今この地上にいるときですら、その門の内側とは地続きなのである。
 その門を開ける鍵はみな持っている。
 わたしはそれを奥深くしまい忘れ、盟友によって手を添えられ、ともに開いた。
 ホロンはわたしであり、わたしはホロンだった。
 ミカエルもわたしであり、わたしはミカエルだった。
 この光の門の向こうにある全き円とは、「了」、であり、「無言」であり、「満」であり、「創始前」だ。
 「完璧な静」であり、「大爆発の予感」でもある。
 ここ独特の、そして普遍的な、そして最も根源的な法則は、ただ支えあい、進化することだけである。
 闇すらもここは支える。
 そして闇に支えられている。

 ただ、讃えるよりない。
 ただ、捧げるよりない。

 闇を負うて、
 張り裂けるほどの痛みを負うて、
 この円に融ける。
 光となる。
 
 約束を、胸に。

 ・・・・・・・
Story comments(0) -
スポンサーサイト
- - -
Comment








<< NEW | TOP | OLD>>