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パーティ
「驚いたな。」
「エナタン・ソダーバーグじゃないか。」
 パーティ会場では小さなさざめきが起きていた。
 あり得ないものを見るような響きを含ませたその声の持ち主たちの視線は、エナタンの歩みとともに会場を滑っていった。
 ヨキが笑顔で迎えた。
「ようこそ!歓迎だ!」
 エナタンはこの場の主のところへまるで宿題を済ます学生のように直行して儀礼的に握手の手を差し出した。
「おめでとう。」
「ありがとう。」
 カイルは心のこもっていないエナタンの乾いた挨拶にも器用な笑みで返し、大人の面目を保っていた。
 まるで義務は済んだと言わんばかりに、エナタンは衆目の届かぬような一隅に、バーボンを連れとしてひとり下がった。
 そして白頭鷲が獲物を待つようにしんとそこで立ち尽くした。

 人々はすぐにエナタンの存在を忘れ、それぞれのゴシップに興じ始めた。
 ヨキはさまざまな人々の接待をしながら、エナタンが来たほんとうの理由が現われることをエナタンとともに期待した。
 だが、その期待とは裏腹にすぐにエナタンは自分が会いたくもない人物の顔を拝むことになった。
 アレク・ヒューグレイは、会場に足を踏み入れてすぐにエナタン・ソダーバーグの存在に気づいた。
 エナタンにも分かるような大きな嘆息を吐いて、ゆっくりと近づいてきた。
「エナタン・ソダーバーグ。少しは大衆に近づくこともし始めたかね?」
 エナタンは自分の目盛りが跳ね上がるのを静かにこらえた。
 ヨキがこちらを見ていた。
 アレクはうなずいて続けた。
「いい傾向だ。きみが嫌う大衆こそがきみの救い主だ。ボーダー社は一部のマニアのための出版社ではない。きみがその世界に居座り続けるなら違う窓口に案内してもいいと思っていた。まあ、がんばりたまえ。」
 エナタンは無言のままアレクを見送った。
 今日の目的がなければ、手にしたバーボンを浴びせていたところだった。
 
 その時、エナタンの目的が現われた。
 フェイ・ダマスカスは自分の担当するエッセイストと連れ立ってその細い足首で赤い絨緞を踏みしめて入って来た。
 くるぶしにアンクレットが揺れる。
 エナタンはバーボンをあおった。
 フェイの足首に煌めくのは彼が彼女に贈った唯一のプレゼントだった。
「まだそれをしてるのか?」
 エッセイストがカイルの元へ行くのを見送って、フェイはその声に振り返った。
「エナタン。」
 フェイの端正な顔に微妙な表情が現われた。
「あなたが来てるなんて。」
「そういうこともあるさ。・・まだしてるんだな。」
 エナタンは顎でそれを指した。
「わたしはマゾヒストだって思うわ。教訓として自分に鞭をくれるようにしてただけよ。結局あなたの氷壁にはかなわなかったってね。思い上がってたの。でもそれも今日で最後。この足枷から卒業するわ。」
「フェイ。」
 カイルの声がした。
「今から紹介する。こっちへ来てくれ。」
 フェイは微笑むとカイルの元へ歩んだ。
 司会者が衆目を集めた。
「みなさん。この記念すべき今日に、もうひとつのグッド・ニュースをお伝えしましょう。フェイ・ダマスカス嬢こちらへ。」
 エナタンは、この場に居合わせたことを後悔した。
 カイル・クロイツィフェルドの受賞記念パーティーは、彼の婚約発表パーティーでもあったのだ。
 そして、その相手とはエナタンがこの日、ここへ来てもう一度やり直そうとしたフェイ・ダマスカスだった。 
 ヨキは絶句し、そして小さくうめいた。
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