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再会
 ひと月もするとエナタンは車椅子にも乗らずに自分の足で退院した。
 殺到するマスコミ対策のために、記者会見が開かれることになった。
 マスコミ嫌いのエナタン・ソダーバーグが記者会見をすることも、転落の謎も世間の関心を集めていた。
 エナタンは慣れないフラッシュの中、ヨキにサポートされながら会見席に着いた。
 初めの問いがエナタンに投げかけられた。
「どうしてあなたはホテルの屋上から落ちたのですか?何があったのですか?」
 エナタンは少しの間を置いてしゃべりだした。
「・・。ここに、カイルの名誉のために真実を告げます。わたしはカイル・クロイツィフェルド氏をビルから落とそうとして、誤って自分が落ちました。」
 会見場にざわめきが起こった。
「それはクロイツィフェルド氏を殺そうとしたということですか?」
「そうです。」
「どうしてですか?」
 記者たちは口々に叫んだ。
「嫉妬や憎しみからです。」
「どういう憎しみなのですか?」
 場は急に温度を上げた。
「わたしよりも幸福にみえた。わたしにはかなわないものを持っていた。」
「ご自分の人生を棒に振っても、そうしようと思ったのですか?」
 エナタンの目は静かに小さく灯った。
「その時、人であることを忘れました。そして今、人として回復したいと、懺悔するために死の淵よりもどりました。カイル・クロイツィフェルド氏には心よりお詫びを申し上げ、罪を償うつもりです。」
「いつお会いになります!?」
「ソダーバーグさん!」
 記者たちが矢継ぎ早に問い質す中、ヨキはエナタンを立ち上がらせて退場させた。
 車の中で、エナタンは息をもらした。
 ヨキは聞いた。
「疲れたか?」
「ああ、肉体は重い。」
「?」
「人生も重いな。」
 ヨキはエナタンの肩をたたいた。

 目立たない小さなホテルの一室で、ヨキも同席してエナタンはカイルと再会した。
 カイルは少しやつれていたが、エナタンに自分から手を伸ばした。
「会見を見たよ。」
「すまなかった。」
 エナタンはカイルの手を取って頭を垂れた。
「いや。済んだことだ。それより体は大丈夫なのか?」
 エナタンは微かに唇の両端を上げてカイルの眼差しを見た。
「きみがなぜ微笑み、なぜ、たくさんの人とつながってゆけるのかがわかったよ。」
「?」
「わたしはきみの光がまぶしくて、自分の中の闇をきみに託してそしてそれを殺そうとしていた。きみではなく、自分を殺したかったんだ。自分の闇と折り合いがつけられていなかったんだ。きみや、ヨキや、フェイのサポートによってそれを乗り越えようとさせてもらっていたのにそのことに気づかず・・。」
 エナタンは言葉を続けることが出来ず、黙った。
 カイルはエナタンのあまりの変り様に、思わずヨキを見た。
 ヨキはうなずいた。
「きみがこのことで傷ついたこと、謝りたい。」
 エナタンはほんとうに真摯な態度を見せた。
 それはいまだかつて誰も見たことがなかった姿だった。
 立ってエナタンと向き合っていたカイルはソファーに腰を下ろした。
 言葉を発することをしばし止めて、エナタンが言ったことをかみしめているようだった。
「わたしもきみを憎んだ。」
 エナタンとヨキはカイルの顔を見た。
「わたしを引きずり降ろそうとする存在を、わたしは憎んだ。きみをとやかく言える立場にない。」
「きみが?」
 エナタンは目を丸くして問い返した。
「わたしだって、ただ、しあわせでありたかった。わたしが何を悪いことをしたのだと、きみや運命を恨んだ。だが・・。」
 カイルは自分の顔を両手でなぜまわすと、小さく息を吐いて笑んだ。
「今、まったく違う想いにとらわれた。」
 カイルは顔を上げてエナタンを見た。
「きみはわたしが今まで感じたことのない感情を味わわせてくれた。もちろんきみがこうして謝ってくれたからわたしは心を入れ替えることが出来たのだが、何と言ったらいいのか・・。とにかく握手しよう。」
 そう言って微笑んだ。
 殺されそうになった者と、殺そうとした者が、固く握手を交わした。
 ヨキは、自分が今この瞬間ここにいるこの幸福に感謝した。
「めったにない現場にいるな。オレは。」

「フェイは元気か?」
 エナタンはもうひとつ気がかりなことを尋ねた。
 カイルは苦笑した。
「まあ、こういうことがあれば元気とはいかないが。きみの会見を見て、まずまずだ。」
「ふたりでしあわせになってくれ。」
 カイルとヨキは黙ってエナタンを見た。
「わたしはやることがある。」
 カイルと別れて、ヨキはエナタンに尋ねた。
「やることとはなんだ?」
「まずは罰を受けて、それからだ。」
「カイルに怪我はなかった。カイルは訴えないんだ。だがきみはすでに世間の冷たい目によって罰せられた。それが罰といえば罰だな。」
「償うさ。」
「何をするって?」
「書くんだ。」
「何を?」
「わたしが見て来たことを。」
「何を見て来たって?」
「12の門だ。」
「?」
「わたしはそのために生まれた。」
「何のことだ?」
 エナタンはただ微笑んだ。
 だが、ヨキはその微笑みを遠い記憶のどこかで見たような気がした。
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