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進化のペダル
 かつてルシファーであり、かつてホロンであったものは、その源であるひとつの大きな光だった。
 その光には意志があり、呼吸があった。
 吸気によって輝きを増し、好奇心に満ちた呼気を吐いた。その営みが、久遠から永劫まで進化のペダルを漕ぐ。
 階段を降りてくる者がいた。
 美しい翼はなかった。
 水晶のような瞳をしたルシファーだった。
 少し遅れてホロンの姿があった。
 天上人の宮殿まで降りてきたふたりは、顔を見合わせると微笑みを交わした。
 ルシファーの周りに赤い竜が舞った。
 出迎えだった。
「では、ゆくか。」
 今度はルシファーがホロンに告げた。
「ああ。ではまた。」
 そう片手を上げてホロンは返し、微笑んだ。
 天使の翼を持たず、竜によって降りてゆくルシファーをミカエルは見送った。
「ここでの記憶はきみだけが持つ。あらたな進化の使命を背負い、天上の千日にあたる地上の一日を尊びたまえ。」
 ルシファーはうなずくと、静かにそこを発った。
 竜の背に風の流れを感じながら、ルシファーは懐かしき暗き光の苗床へと向けて降りていった。
 瞳の色に澄んだ力強い明るさと平穏な柔らかさを滲ませて。

 ・・・・・・・・

 街は暁の光に照らされ、蘇ろうとしていた。
 病院の窓辺で、ヨキはその空を望んでいた。
「明けの明星だ。」
 つぶやいた言葉を受ける者はいなかった。
 ベッドに横たわるエナタンにはいくつものチューブが取り付けられ、ただ無機質な機械音だけがその部屋に低く響いている。
 だが、振り向いたヨキの目は、微かな変化を見逃さなかった。
「エナタン!」
 3ヶ月もの間、生ける屍となって横たわっていた男の目が開いていた。
「わかるか!オレだ!ヨキだ!」
 叫ぶヨキに微かにうなずいた。
「先生!エナタンが!」
 病室を飛び出していくヨキの姿を目で追いながら、エナタンは深い息を吐いた。
(ホロン・・。)

 医師は驚いた顔をしてエナタンの元に来ると、色々と調べ始めた。
「意識がもどるとは・・。運の強い人だ。」
「もう大丈夫ですか?」
 ヨキの問いに、医師は慎重に答えた。
「どのくらい後遺症が残っているかはこれからです。」
 医師が立ち去ってからもヨキはエナタンの枕元から離れようとしなかった。
「大丈夫だ。きっとよくなる。ほんとにあんたは悪運が強い。オレが保証する。」
 そう言って笑う。
 エナタンは微かに笑った。
「分かるのか?そうさ!必ずよくなる。今までみたいにちょくちょく会いに来るからな。元気になってまた一緒に仕事をしよう。」
 エナタンはうなずいた。
 ヨキは感極まってエナタンの手を取って目頭をぬぐった。
(こいつはほんとうにお人良しだ。無理もない。ホロンなのだから・・。)

 エナタンの回復は目覚ましかった。
 言語障害も記憶障害も残らず、3ヶ月も意識不明で絶望視されていたとは思えない回復ぶりだった。
 医師が学会に報告するくらい、奇跡の回復とそれは言われた。
 車椅子に乗ったエナタンは、自分がビルから落ちてからの報道のされ方を、ヨキが持ってきてくれた新聞や雑誌を読んで知った。
 現場にいたカイルが疑われたことも知った。
 ヨキは少し黙ってエナタンの瞳をじっと見つめてから聞いた。
「何があった?」
 エナタンはヨキの顔を見て、そして静かに口を開いた。
「カイルを殺そうとした。」
 ヨキは椅子に座った。
「では。訴えられるのはあんたの方じゃないか。」
「そうだな。」
「フェイのことでか?」
 エナタンはうなずいた。
「もろもろだ。わたしは愚かだった。すべてわたしの犯した罪だ。償うつもりだ。カイルには謝りたい。」
 ヨキは目を見開いた。
「エナタン・・。」
 ヨキの方を向くエナタンの瞳に以前の暗さがないことにヨキは気づいていた。
「頭を打って人が変ったのか?えらく素直になったもんだな。」
「ヨキ。きみには礼を言いたい。ずっと言っていなかった。」
 ヨキはエナタンの前に手を出した。
「これは何本だ?」
 エナタンは高らかに笑った。
「2本だ。」
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