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光の門
 大理石のような床に、自分の姿が映っているのに気づいた。
 自分のようで自分でないような、気高い瞳をした者がそこにいた。
 傲慢な瞳の底の方でいつも怯える暗い眼(まなこ)はそこにはなかった。
「ホロン。」
 ホロンも山羊の毛をまといひずめを響かせていた姿から、天使のような姿になっている。
 輪郭がぼうっと光り輝いている。
「光る者とは・・。こういうことか。」
「きみもそうであることに気づいたか。」
 そこにいる者はすべてそうして光を放っていた。
「ここが、天上というところか?彼らは天使か?」
「人はそう呼ぶ。だが、元々人はそうであった。ここから生まれていった。」
「地上へ?」
「そう。きみが生まれたように。」
「わたしは堕ちたのだ。自分の罪によって。だが、みなはなんのために?なんのために堕落しにいったのだ?地上はつらい場所だ。どうしてわざわざこの素晴らしい場所を捨てて地上へと向かうのだ?」
 ホロンは静かに唇を結んで、そしてそっと両端を上げた。
「堕落しにいったわけではない。乗り越えて進化するためだ。」
 ミカエルが静かに語った。
「ルシファー。きみは天に逆らったつもりだったろうが、実はまさに天の御心にかなった使命を負っただけだ。」
「どういうことですか?」
「進化は止むことはない。それが天が天である理(ことわり)だ。そして、その進化には二極がなくてはならぬのだ。」
「二極?」
「薄明るい光にほんとうの輝きを与えるのは闇だ。」
 その人は光りながら続けた。
「深い闇の深淵がなければ、全宇宙を生むほどの全き光はこうも輝かない。完璧なシナリオだ。きみはまだ、わたしが誰なのか気がつかないのか?」
 ルシファーは少し驚いて、まぶしくてよく見えないミカエルの顔をまじまじと見つめた。
 その人物でしかありえない微笑みをミカエルは浮かべた。
「カイル・・。」
 そして、フィオナを振り返った。
「そうか、きみは・・フェイ・・。」
 ここに至り、ルシファーはついに観念し、脱力するようにその場に膝をついた。
「わたしは知らずにそれを果たすために、放蕩を尽くしたということか?」
「闇すらも逃げ場がないのが、第12の門の向こうの天だ。」
 ルシファーは初めて畏れを抱いた。
「なんということだ。わたしの罪すら、すでにその営みに仕組まれていたというのか。わたしが抗った相手というのは抗うことすら許さないはかり知れない相手だということになる。」
「そういうことだ。」
 ルシファーはその意識が生まれてから、かつてなかったくらいほとばしるようにひざまずき、深々とその頭(こうべ)を垂れざるを得なかった。
「ああ・・その天に・・・帰依します。」

 ホロンが振り返って問うた。
「では、ゆくか?」
 何度この言葉を聞いたことだろう。
 ルシファーはうなずいた。
「きみが逆らい、きみが逃げ、きみが憎んだ天こそが、きみの源だ。では、ゆこう。」
 ルシファーが流す涙はころころと光って真珠となり、金剛石となった。
 ルシファーはそうして星を生んでいることを、胸で知っていた。
 天上人の調べは荘厳さを増し、雲が晴れてきたその頭上に、果てしなき幅と高さを持つ階段が現われた。
 だが、それを歩まずともルシファーとホロンは雲に乗り、進んでいた。
 巨大な階段は、ただ、その行く先を示す案内であった。
 天を見つめるルシファーの瞳に、百億の朝日のような光が差し始めた。
 ルシファーは瞳を失い、耳を失い、両の手と両の足と、生えたばかりの翼も失っていった。
 ホロンと融け合ってゆくのを感じた。
(12番目の門をくぐるのだな?)
(ああ。)
(不思議だ。自分というものを失ってゆくのに、少しも恐ろしくない。あんなにも失うことを恐怖した自分とはなんだったのだろう?)
(ひとつであり、万でも億でもある。その、万からひとつになるだけだ。どちらも自分であり、自分ではない。)
(得意のそれか。ここは、何の門というのだ?)
(光の門だ。)
(もう、対話もなくなるのだな。)
(そうだ。なぜなら。)
(ひとつ、だからだ。)
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