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白い空
 ・・・・・・・

 大海が凪いでいる。
 熱くも冷たくもない融けるような心地良いその羊水の波間に浮かびながら、エナタンは深い呼吸に安らいでいた。
「エナタン。」
 呼び掛ける声に遠い眠りから呼び起こされた。
 白夜のようだった。
 白い空が広がる。
 見覚えのあるつぶらな瞳がエナタンの顔を覗き込んでいた。
「ホロン。」
 気づいたとたん水に浮かんでいた身体が沈んだ。大きく両手で水を掻いて水面に浮かび直した。
「行くぞ。」
 うながされて、エナタンはホロンの後を追って泳ぎ始めた。
 すぐに白い浜が現れた。
 水から上がると、その浜に倒れこんだ。
「・・・。」
 ホロンは脇で座り込んでいる。
「ここが闇の向こうか?」
「そうだ。」
「なんという穏やかさだ。」
「ああ。」
「随分久しぶりに明るい空を見た。」
「・・。」
「闇だと思っていた深淵の果てにこんな安らぎがあったとは・・。」
「もうきみは第8の門の内にいる。」
「ここはなんだ?」
「平穏だ。」
「第7の門はいつ超えたのだ?」
「きみが飛んだ時だ。」
「ホロン。」
「なんだ?」
「大いなる者がオレを迎えた。あれはいったいなんだ?」
「・・。」
 ホロンは感慨深く言葉をもらした。
「きみがそこから逃げた。その御胸だ。」
「御胸・・。」
 エナタンはその言葉がまさにぴったりであることを想い起こしていた。
「まだここは第8の門だ。覚えているか?」
 ホロンはエナタンを覗き込んで笑った。
 エナタンは我に返るとつぶやいた。
「まだ先があるのか?」
 ホロンはエナタンをうながすと、立ち上がり、砂浜を歩いていった。
 エナタンはただその後ろをついていく。
 緑が見えて来た。
 樹木の間を分け入って明るくひらけた空間に出た。
 エナタンはそこで驚いて目を見開いた。
 そこには見たこともない美しい花々が咲き誇る草原が、夢のように広がっていたのだ。
 そしてまさに今そこに足を踏み入れようとするエナタンの足元ではふたつの花が咲こうとしていた。
「その柔らかな橙色はわたしので、その横の薄い夕陽色はきみのだ。」
「オレの、とは?」
「今ここにきみが足を踏み入れて抱いた心が花開いたのだ。」
「ではこの・・。」
 エナタンが自分の胸に手を当てて言葉に出来ないでいると、ホロンが代わりに口にした。
「感謝だ。」
「オレの人生にはついぞなかったものだ。それはこうして花を咲かすのか?では、ここにはこれだけ感謝の花が咲いているというのか?いったい誰の?」
「人々のだ。」
 エナタンは遥か一面の花々に黙った。
 自分の目に焼きつくようなこのまさに天界のような光景は、人々が生んでいるというのか?
(たとえこれが幻だとしても、オレはこのことに、感謝するだろう。)
 エナタンは泣いていた。
「よく泣くようになったな。」
「震えがくる。あまりに美しくて。」
 ホロンはうなずいた。
「気づいたか?これが第9の門だ。」
「ああ。」

 オーロラのような輝きを見せる白い空に、鳥のような一団が姿を見せた。
「ミカエル・・。」
 ホロンがつぶやいた。
 鳥のように見えた群れは、近づいてくるにつれ、神々しい顔を持つ天使のような存在であることにエナタンは気がついた。
 信心深くないエナタンだったが、思わず膝を折ってそこにひざまずいた。
 7人ほどの人々は音もなく静かにエナタンたちの元へ降り立った。
「ホロン。よくもどった。」
 真ん中の人物がホロンのいうミカエルのようだった。
 微笑みながらミカエルは語りかけた。
 輪郭がぼんやり光っている。
「ルシファー。よくぞここまでもどった。待ち切れずに迎えに来た。」
「待っていた、と。」
「そうだ。友よ。きみを。もう遥か久遠の昔から。」
「なぜ?わたしは天を裏切ったのです。迎えられるようなことはしていない。」
「そうではない。きみは天の一部だ。きみの苦悩と痛みこそが天への慈愛となるだろう。天はなんびとにも裏切られることはない。きみの心からの涙こそが、この花々の朝露となっているではないか。では、ゆくか。」
「どこへ?」
 ホロンを振り返ると、ホロンは大きな翼を広げた。
「第10の門へ。」
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