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第6の門
「うっ。」
 エナタンは頭を押さえた。
 頭の芯にキーンと響く高い金属音のような振動を感じた。
 前へと足を出すことに多大な努力を必要とする。
「なんだ、これは?」
「息を静かに。ゆこう。」
 ホロンは大きく息を吸って、そして息を詰めるとエナタンの背中を押した。
「この満ち満ちる振動はなんだ?生理的にいやな感じだ。毛が逆立つ。」
 ふたりはサタンとも恐れられるルシファーの、微かな希望に見送られて第6の門の中へと姿を消した。
 闇の中でぶつかって来たものがあった。
 エナタンには分かった。
「コウモリだ。」
 それらが、1匹や2匹でないことはその羽ばたき音で分かった。
「コウモリの鳴き声か?」
「いや。」
 ホロンの声だけがする。
 あまりの闇にホロンの全身は沈んでいた。
「きみが一番見たくないものはなんだ?」
「脅かすな。それが出るんじゃないだろうな?」
「闇というものは何かわかるか?」
「何?」
「それは想念が作り出す。自然が作ったものではない。だが、自然が我々を作った。だから元をたどれば自然とも言える。」
「おまえの言うのはよくわからない。何が出るんだ?」
 と言った時、エナタンは自分の行く手を綱のような何かに遮られた。ハッとすると、その綱は縦横無尽に張り巡らされていることに気づいた。
「うっ?この綱は粘着力がある・・。」
 金属音のようなかん高い音は高くなった。
「くっ・・。つらい・・。なんなんだ、この音は?」
 すると、音が高くなるのに合わせて大きな赤い光が点滅し始めた。
 その光のおかげで、エナタンは自分の目の前にあるものを見るはめになった。
 白い綱を張り巡らせた巨大な岩ほどの蜘蛛が、燃えるように赤く光っている。
 どう見ても怒っているとしか見えない。
「逃げろ!」
「どっちへ!」
「こっちだ!」
 たった今エナタンがいた場所に、蜘蛛は体当たりしてきた。岩盤が振動した。
 ホロンは壁の横穴に潜った。
 エナタンも飛び込んだ。
「当たりだ!オレが一番見たくないものだ!」
 ホロンは素早く横穴をくぐり抜けて、他の洞穴に出た。
「まいったな。しかもでかい。」
 珍しく愚痴をこぼした。
「きみにつきあうには骨が折れる。スリラー作家が蜘蛛が嫌いか?」
「贅沢いうな。嫌いなものに理屈があるか?なんなんだ、この門は?」
「見ただろう?・・怒りだ。走れ!追ってくるぞ!」
 ふたりは走った。だが、あのいやな高い音は少しも小さくならない。
 赤い蜘蛛はすぐにこっちの洞穴を見つけた。
 がさがさと足音は幾重にも重なりあって重く響いてくる。
「想念なら消えろ!消えてくれ!」
「違う。その大元の怒りが鎮まらなければやつは消えない。やつは象徴だ。だが、きみを殺すことは出来る。」
「うんざりだ!何度死ぬっていうんだ!もう言語を絶する苦しみはごめんだ!」
 ホロンは今度は天井に開いた小さな穴を見つけて器用にそこに飛びつき、エナタンを引き上げた。
 間一髪、蜘蛛は通り過ぎた。
「少しでも遠くへ行くぞ。あの音がしているだろう?」
 ふたりはさらに昇り続けた。さらにさらに上へ上へと。
 やがて穴に下りてから初めて外気をその頬に感じた。
 崖の淵がテラスのように広がっている空間に出た。
「外だ・・。」
 エナタンがほっとした声を上げた。
 初め曇天のようだった空は、まるで夜のように暗く沈んでいた。
 重く黒い雲が垂れ込め、風が吹き渡っている。
 眼下は果てしなかった。広さもそうだが、深さも底が見えなかった。
「ここもあまり、希望的なところでないことだけはたしかだな・・。」
 ほっとしたのもつかの間、エナタンの声は曇った。
 ホロンが笑った。
「くっくっくっ・・蜘蛛もわるくなかったな。」
「えっ?」
「べたべたした執着が絡まり合っているのはたしかに蜘蛛の糸のようだ。怒りをよく現わしている。」
「変なところで感心するな。」
 だが、エナタンも気づかず笑っていた。
 苦難をともに超えてきたことで、エナタンはホロンに道案内以上の感情を覚えてきていた。
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