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ルシファー
 ・・・・・・

 わたしは「光を運ぶ者」「光り輝く者」。「光の天使」と呼ばれた。
 深遠を知り、あらゆる美しさを感受する力と、それを発揮する才に恵まれていた。
 天界のものは皆、容姿、知識、勇気、人望わたしのあらゆる部分を讃えた。
 わたしにはなんの陰もなく、満足と自信と力に満ち満ちていた。
 ある時、わたしは思った。
 これだけ全てを理解し光り輝いているとしたら、一体神とわたしとの違いはなんであろう?
 その小さな疑問はわたしのすべてを捕らえるのにそう間を置かなかった。
 わたしは気づいたのだ。
 わたしが神になって何が悪い?
 その高揚と恍惚といったらなかった。わたしはまさにその時、堕ち始めたのだ。
 かしづくものを頂いていたその封印はみなぎるものに喝破された。
 わたしが声をかけると、天界の1/3の天使が集まった。

 わたしは月の天使ホロンにも声をかけた。
 だが、ホロンは言った。
「ルシファー。きみがほんとうに喜ぶことならわたしは喜んで手伝おう。だが今、きみがやろうとしていることはそれではない。ミカエルはきみを捕らえて離さないものに容赦はしないだろう。それがミカエルの愛だ。だがわたしはきみの本質だけを見よう。きみはこれによって苦しむ。それがわたしはつらい。思いとどまってくれ。」
 だが、わたしの耳にそれは届かなかった。
 ホロンは飛び立とうとするわたしを羽交い締めにしたが、わたしは振り切った。
「待て!わたしは約束する。たとえきみが堕ちても、きみを追ってゆく。そして、きみがほんとうの喜びに再会するためにすべてを懸けよう。それがわたしの存在の喜びだから。それこそがきみも望むものだ。知っている!信じている!忘れるな!」
 わたしはホロンが叫ぶ声を聞いた。
 だが、その時は聞き流した。
 わたしたちは闘った。太陽の天使ミカエルの率いる天界の天使たちと。
 闘いは熾烈を極めた。天に逆らったわたしたちは初めての敗北を味わい、羽根は裂け、黒く焦げ、味わったことのない恐怖とともに地に堕ちていった。
 わたしは恨んだ。底深くより天を憎んだ。
 この恨みを晴らすために、わたしは地において魔王となり、人に闇を教えた。

 ・・・・・・・

 座り込んで青息吐息でいるエナタンに男は言った。
「わたしが落ちた時、わたしの後を追ってホロンは泣いてくれた。ホロンはわたしの軍には加わらなかったのに、今もこうしてわたしとともにある。」
 エナタンは傍らのホロンを見上げた。
 ホロンは静かな目をしてうなずいた。
「きみの一番抜き差しならぬ業がこの第5の門の傲慢だ。なぜきみがそういう人生を歩むのか分かるだろう?これを超えなければならない。自分自身を超え、進化するために地上に生まれる。それ以外になんの目的がある?」
「わたしが、おまえ?」
 その男の座り込んだ下半身に目が釘付けになった。
 凍りついて化石のようになっている。
「サタン・・なのか?おまえは・・いや、わたしは・・。」
「ルシファーだ。」
 とたんに赤い竜が自分のそばを巡るのを感じた。
「それもわたしだ。わたしは金星の神とも呼ばれた。竜の形をとることもある。」
「わたしが何を出来る?もう地上にはいない。何も出来なかった。」
「いや。今していることがおまえに託したことだ。」
「?」
「見よ。わたしの羽根はもう天を飛べず、わたしの足は自らの思い上がりによって朽ち果てようとしている。わたしの中に僅かに残る天上の欠片が、おまえを生んだ。そしてその僅かな欠片が、ホロンの声を聞く。そうでなければわたしの腹で憎しみで煮えたぎる溶岩と、この胸の氷のような息にやがてこの座を明け渡すこととなろう。あとはただ黒い残骸の山となるだけだ。それはこの世に憎しみの種となってまき散らされてゆく。ルシファーはただの憎しみの砂塵となる。かつて光といわれた者が・・。」
 ルシファーの瞳は深い孤独に沈んだ。
「今までの人類の歴史を知っているだろう?わたしの砂塵を表現しているのだ。この慟哭を乗り越えるために人生はある。乗り越えなければこれは未来へと永々と受け継がれる。」
 ルシファーは僅かに残る浄い光を瞳に宿らせて語った。
「ゆくのだ。わたしの源へ。生きなおせ。そしてかつてそうであった、そして未来そうであるわたしとなれ。」
 この詮無き哀れな存在がために自分の人生はあったのか。
 エナタンはしばし身じろぎもせず沈黙した。
 深い深い闇の底からの凍えるような風はここから来ていた。哭きたくなるような冴えざえとした切なさは、ここから受け継がれてきていたのだ。
 深い理解がエナタンの身を覆っていた。
 恨みと憎しみは、苦しみと哀しみの裏返し。
 自らの行ないを背負い切れずに地に堕ちた。
 だが・・。
 やがてゆっくりと静かに立ち上がった。
 分かっていた。
 これは自分ひとりのことではない。
 地上に人が生まれ、繰り返しそれをおさらいし、乗り越えようとして散り行くようになったのは我がルシファーの所業から始まったのだ。天の床を掴んで引きずり下ろしたのはこのまさにわたしであるところのルシファーなのだ。
「償えぬわけだ。」
 エナタンはつぶやいた。
「だが、ゆくしかないのだな?」
 ホロンに問うた。
 ホロンは黙ってうなずいた。
「さあ、その根へと。その深みへと。」
 ルシファーはうながして自らの息で第6の門を開けた。
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